園芸・渓流釣り・温泉

「欅平」から日電歩道を行く





崩れた水平道

数箇所の梯子と梯子の間には、幅1mにも満たない岩の道が有っ
て、その道の崩れた割れ目に写真のような丸太が補強してある。





 私はなんとしても、その「東谷」まで行ってイワナ釣りをして みたいと思った。
今考えると、知らぬが仏とは言え、大した経験も無いのに恐ろしい事に取り組んでしま
ったのである。

どんな場所かおおよその見当はついていたが、想像する黒部の長く険しいアプローチ。
現地に到達したとして果して「東谷」を遡行できるのだろうか?

それで、いろいろと現地の状況・日程・装具やその他について検討を始めた。

ある山岳文献によると、「関西の本格的な沢登り・ロッククライミングのベテランパーティ
ー数人がアタック難業の末に、遡行して鹿島ウラ沢から牛首尾根、鹿島槍に至った事
や、出合上流100mに2連の8mの滝があり、さらに、峻険なゴルジュ帯を通過しなけれ
ばならない事」 等が記されていた。




ところどころ雪渓で途切れている黒部川本流


 この計画は当初から1人で行くつもりであった。それだけに大きな不安と好奇心は、
「東谷」を目標に着々と準備を進めるうちに増大していった。

「果して行けるだろうか?、、、」

 考えてみると自分は、S氏から、「東谷」にイワナが棲息していた事を聞いて、それを
確かめてみたくなったのであるから、全川を遡行出来なくても、例え「東谷」の下流部
だけでも入渓できれば目的達成になる。

最初の難関の2連の8mの滝をなんとかクリアさえすれば東谷本沢を見ることが出来る。
そして、その滝が本流からのイワナの遡上を遮っているのだから、滝から上の岩魚は
正真正銘の「東谷のイワナ」ということになる。

 私は予定通り、更に、より綿密で周到な準備を開始した。

東谷へ入渓の準備




途中の黒部本流の清冽な流れ、川原の岩は写真の見た目より大きい。
水量も多く、中心の深さは背の届く深さではない。





 まず、軽いテント・シュラフ・10mmザイル40m・登攀用具・食料食器・地図・アタック
ザック・釣具・渓流シューズ・水に濡れても直ぐ乾く衣類・その他を決め、現地の航空
写真まで用意した。

航空写真で上空から出合付近の状態を調べたかったのだが、これは失敗だった。
今思うと笑い話、拡大鏡で丹念に見てもおおよその見当はついたが、樹木に遮られて
詳細不明だったのである。

 それは兎も角、 「東谷」への行き方としては、宇奈月を経て欅平から水平道を上る
のと、黒部川上流の黒四ダムから同じく水平道を下るという二つの方法が考えられた。

宇奈月から欅平まで行って水平道を歩き阿曽原温泉に泊まって翌日、「東谷」に行き、
帰路は同じ道を戻るとして最低3泊4日の日程を要する事。

また、もう一つは、黒四ダムまで行き黒部川下ノ廊下を下り、十字峡を経て仙人ダムの
手前の 「東谷」を目指すコースである。この場合はテント泊で、やはり2〜3泊を要して、
これも同じ道を戻る事になる。

車の利用でなければ、(黒四ダムから十字峡、S字峡、仙人ダム、阿曽原温泉、欅平)
という下ノ廊下を一括通して同じ道を戻らずに歩けるのだが、上からか下からかの
どちらかを、選択しなければならなかった。

そして、水平道を歩くには8月中旬以降でないと残雪で無理な事、 「東谷」出合に行く
ために道はあるらしいが地図を見ると、場合によっては黒部川本流の左岸から右岸に
泳いで渡渉する必要のある事などを知った。

 さて、「東谷」出合、左岸から右岸に渡渉するのは可能だろうか。なにせ黒部川本流の
中流部である。相当な水量でも何とか渡らなければならない。水泳は出来るが昔の事で
達者ではなく近年泳いでなかったし渓流での泳ぎは初体験のようなもので自信がない。

思い立つと止まらない習性は、「身体の為にも良いと」理屈を付け、水泳ジムに入会して
3年通った。また、滝を越えるのに未経験のロッククライミングも少しは知っておいた方が
良いと考え、栃木県で初心者を教える催しを見つけて2回参加した。

 水泳もロッククライミングのいずれも今更、本格的に覚える必要は無かったが、自分の
身体に幾分でも気合いを入れることで、全然知らないより僅かでも自信をつけておくため
に、基本的な技術を把握できれば良い位の思いつきだった。


この時は同行者あり




岩壁の水平道

切り立った岩山の上部に、岩盤を削って造った道がある。
水平道とは言うが、曲り道を登って回り込み、その削られた道
を歩いた。写真の真ん中より少し上の黄色い壁が凹んでいる
が、それが水平道である。



 ある時、この「東谷」に1人で釣行する経緯と計画を、毛バリ釣りの数人の仲間の
会合で話したところ意外にも、その中のKちゃんが一緒に行くと言い出した。私より
一回り大柄で10歳程若く、自分より更に毛バリ釣りにのめり込んでいた。

 彼は、水泳はマスター級だと言っていた。自称マスター級の彼の言葉は、渡渉に
あまり自信のない自分にとっては心強い同行者でもあり、渡りに舟で、一人で行く
より話し相手として二人の方が楽しいからと、一緒に行くことにした。

あとで判った事だが、彼の目的は「東沢」などはどうでもよくて、「黒部の下ノ廊下で
イワナを釣る」 事だったらしい。

「東沢のイワナを確認する」 という一つの目標を目指して一緒に遡行してくれる心
強い同行者を得て内心喜んでいたのだが、お互いに別の目的で便乗しただけの
同道だった。


 









 釣行の日程は、8月13・14・15日のお盆休みの12日の夜出発で、13日・
14日キャンプ2泊、15日に帰路に就くという計画を企てた。いよいよ準備万端
整えての実行である。

 黒部川下流の宇奈月駅から欅平までは黒部峡谷鉄道が走っている。宇奈月
駅前は大きな駐車場になっていた。彼と私は、明日朝一番のトロッコ鉄道の発車
までの間、その駅前の駐車場にテントを張り、仮眠することにした。乗車までの
時間待ちである。

折しも8月夏の観光シーズンである。大きな荷物もあり初めての乗車ということも
あって、どんな混雑か判らないため用意周到、埼玉から銀行振込で乗車の予約
をとっておいた。もし、満員で乗り損なえば、道程の長い一本道でやり直しは効か
ない。まして、一年に一度だけの機会である。念には念をという事だった。明日の
事を考えて二人で簡単に酒を酌み交わし、早々と寝袋にもぐり込んだ。

 黒部川下ノ廊下には、左岸に黒部ダムから欅平まで、およそ高さ200mの日電
歩道が平行している。水平道と呼ばれているこの道を歩き、途中の阿曽原小屋
でキャンプ1泊、翌日に「東谷」を目指す計画である。

この日電歩道と同じように、黒部川中流はダム発電所の保守用らしい関電のトン
ネルが通じているが一般者は利用できない。聞くところによると、我々が徒歩で何
時間も掛かる道程を僅かな時間で通過できるそうだ。ただ、トンネル内は40℃以
上の高温になっているらしい。

 思うに、関電の関係者と懇ろ(ねんごろ)になってこのトンネルを使えたとしても、
暗い隧道を周りの景色も見ないで利用したくはな い。一歩一歩自然を満喫しな
がら行くアプローチ、辛く苦しい行程と重なるところに妙味が有る。

一度位は話の種にトンネル利用を経験してみるのは良いとしても小細工をしてま
で利用したいとは思はない。確か、何時間も掛かる行程をわずか一時間足らずで
到達できるようだ。

 以前、何かの本で読んだことがあるが、或る人は、黒部渓谷をこのトンネルを
利用して行き、黒部下ノ廊下を記事にしていた。それは、途中の行程を省いたも
のであった。

 大げさに例えると、可能、不可能は別にして「エベレスト登山」に、ヘリコプターで
頂上まで直接登頂して、エベレスト征服と言っているようなものだと思う。また、
ベースキャンプから徒歩で登頂するにしても、その為には、シェルパーなどの多くの
人々の手助けがあってはじめて達成される。その意味で単独登頂は、特別な価値
があるのではないかと思えてならない。

 話は戻るが、この計画にキャンプでなく阿曽原小屋に宿泊も考えた。欅平から阿
曽原小屋まで何時間掛かるか判らないから途中でバテて野営する事も念頭に置く
必要があった。また、早朝、夕暮れお構いなしの釣りだから、好きな時間に出入り
自由のテント泊は我々の常用になっていた。

今回も、寝たいときに寝て食べたい時に食べる気ままに過ごせるテント泊に決めて
いた。







トップページ 目 次(site map) 趣味は生きがい 百舌鳥(もず) ビニールハウスの作り方 contact